
目次
はじめに
司法書士事務所のサイトをリニューアルする。
この依頼を受けたとき、私たちが最初に交わした議論は、「色味」でも「参考サイト」でもなく、もっと手前にある一つの問いでした。
このサイトは、誰の、どんな心理に届かせるためのものなのか。
相続、家族信託、認知症対策。
これらは「法律サービス」というカテゴリで括られがちですが、相談する側の頭の中ではまったく違う言葉で考えられています。
「親が認知症になったらどうしよう」
「実家のことを兄と話し合う前に、自分で知っておきたい」
そうした、まだ言葉になっていない不安です。
まこと司法書士事務所様のリニューアルでは、この「言葉になる前の不安」に届くサイトを目指して、サイト全体を貫く4つの設計思想を立てました。
本記事では、その思想と、実際の設計判断をご紹介します。
プロジェクト概要
クライアントは、奈良県生駒市と大阪市中央区に拠点を持つ、まこと司法書士事務所様。
家族信託、相続、不動産登記、債務整理、成年後見など、個人と法人の両面で幅広い業務を扱う事務所です。
代表の松浦亮介様と司法書士の松浦真澄様、ご夫婦で経営されています。
家族の問題を扱う事務所、そしてご家族で運営する事務所。
このクライアントの背景そのものが、サイト設計の出発点になりました。
なぜ「思想」から設計するのか

「サイトをリニューアルしたい」というご相談をいただくとき、その動機の多くは「古く見える」「他社と比べて見劣りする」というデザイン要因です。
実際、デザインを刷新することで一定の改善は得られます。
新しいフォント、整理された余白、現代的な色設計。
これらは確かに、訪問者の第一印象を変えます。
しかし、表面のデザインを刷新しても、3年経てばまた同じ理由でリニューアルしたくなります。
色のトレンドは変わり、競合は新しいサイトを公開し、自社のサイトはまた「古く見える」状態に戻る。
多くの事業者がこの数年サイクルのリニューアルを繰り返しているのは、表面だけを更新しているからです。

私たちは、この繰り返しを断つために、サイトの「見た目」より前に「設計思想」を決めることから始めます。
設計思想とは、誰の、どんな心理に、何を届けるためのサイトなのかという答えです。
これが言語化されていれば、デザインのトレンドが変わってもサイトの中身は揺らぎません。
むしろ数年後のデザイン更新は、リフレッシュ程度で済むようになります。
まこと司法書士事務所のリニューアルでは、この「先に思想を決める」というアプローチを徹底しました。
今回は、サイト全体を貫く4つの設計思想を、それぞれの設計判断とともにご紹介します。

- 心理ハードルへの徹底介入
- 感情と専門性の二層構造
- 誠実性の演出と相談の質の向上
- メッセージと実装の整合性
どれも派手な仕掛けではありませんが、これらが一貫して流れているとき、サイトは「綺麗な制作物」ではなく「事業の資産」に近づきます。
【設計思想1】心理的ハードルとなるものを徹底的に考える

「お問い合わせ」というボタンは、サイト制作の世界では到達地点として扱われがちです。
「ここをゴールとする」「ここに辿り着かせる」と。
しかし相談する側にとって、お問い合わせボタンを押すまでには長い躊躇があります。
「こんなこと聞いていいのかな」
「自分の状況は相談するほど深刻なのか」
「専門家を煩わせる前に、まずネットで調べてみよう」
この内なる対話を考えない限り、ボタンの色を変えても、配置を変えても、押される回数は大きくは変わりません。
まこと司法書士事務所様のリニューアルでは、サイト全体を通して、この躊躇する数十秒に手を差し伸べる設計を組み込みました。
CTAコピーを「機能語」から「行為描写」へ

サイト内のCTAを、「お問い合わせはこちら」ではなく「不安なことを話してみる」「電話で相談してみる」「メールで相談してみる」という言葉に置き換えました。
「お問い合わせ」は、相談する側にとってフォーマルな動詞です。
法律事務所に対する身構えと結びつきます。
一方、「話してみる」「相談してみる」は日常的な行為です。
電話やメールを送る直前の躊躇と、頭の中で続いている独り言が地続きになります。
CTAコピーは、ボタンの飾りではなく、相談行為の心理的な高さを決める要素です。
同じ機能を持つボタンでも、言葉ひとつで「これは自分が押していいボタンか」の判断が変わります。
「相談するか迷っている方へ」というセクションを設置
サイトの主要ページの下部に、「相談するか迷っている方へ」というセクションを固定で配置しています。
中身はこうです——「まだ相談するほどじゃないかも…」「こんなこと聞いていいのかな…」「相談内容が決まっていなくても大丈夫です」。
これは、未問い合わせ層の頭の中で起こっている独り言を、ほぼそのままサイト側に書き出したものです。
多くのサイトはCTAを「もう問い合わせる気のある人」に向けて設計します。
しかし、実際にサイトを訪れている人の大半は、まだ「問い合わせる気がない人」です。
その層に向けた言葉を一つも持たないサイトは、訪問者の8割を素通りさせていることになります。
電話とフォームを「用途」で分離
問い合わせページでは、電話とフォームを単純並列せず、用途を明示しました。
電話は「お急ぎの方」、フォームは「24時間受付・2営業日以内に返信」と添えています。
相談する側は、自分の状況が「電話するほど急ぐのか」「メールで十分なのか」を毎回判断しています。
サイト側がこの判断を肩代わりすると、訪問者は迷わずに自分に合った手段を選べます。
地味な工夫ですが、フォームに到達した後の離脱を減らす効果があります。
制作のポイント💡
これらの工夫に共通するのは、「お問い合わせ数を最大化する」ではなく「お問い合わせまでの心理ハードルを下げる」という発想です。
前者はボタンを目立たせ、後者はボタンを押す人の頭の中を整理します。やるべきことが、まったく違います。
【設計思想2】「感情」と「専門性」の二層構造

サイト全体を「親しみやすい」トーンで統一しようとすると、サービスページで必要な情報密度が確保できません。
逆に「専門性が高い」トーンで統一すると、相談前の心理障壁を下げられません。
多くのサイトがどっちつかずの中間トーンに着地してしまうのは、両極の必要性を同時に満たそうとして、両方を半端にするからです。
まこと司法書士事務所様のリニューアルでは、サイト全体を一つのトーンで塗る代わりに、ページごとに役割を厳密に分け、レイヤーで切り替える構造にしました。
トップページ|感情訴求のレイヤー

トップページに置いたキーメッセージは、「家族の未来を、ともに考える」。
専門性や実績ではなく、関係性と姿勢を一行に込めました。
サイト全体を貫くブランドコンセプトとして、「第二の家族のような距離感」というメタファーも設置しています。
「親身」や「丁寧」といった抽象語ではなく、「第二の家族」という具体的な関係性の比喩を使うことで、トーンの温度が読者の中で像を結びます。
専門家としての中立性と、感情的な伴走性。
本来は両立しにくいこの二つを、一つのメタファーで同時に表現するための核です。
「私たちが選ばれている理由」のセクションも、感情訴求2項目(ともに幸せを目指す姿勢/第二の家族のような距離感)と機能訴求1項目(専門性と実績)の比率で構成しました。
多くの士業サイトが機能訴求3項目で揃えがちな枠を、関係性訴求を主、専門性訴求を従としています。
ここで専門性の話を持ち込みすぎないのは、専門性の説明は次のレイヤーで行うからです。
サービスページ|専門性訴求のレイヤー
訪問者がサービスページに辿り着いた時点で、その人はすでに「相談する候補」として事務所を見ています。
ここで必要なのは、もう一度感情訴求を繰り返すことではなく、判断材料を提供することです。
家族信託のページでは、専門用語(委託者・受託者・受益者)が出てきた直後に、3行の定義表と具体例を即時提示しています。
読者が前後を行き来せずに理解を進められる構造です。
メリットと注意点を同等の比率で記述し、「家族信託 vs 成年後見制度」の比較表で隣接する代替手段との違いも示しました。
費用も「信託財産評価額の1%〜(最低30万円〜)」のようにレンジで明示しています。
このレイヤーでは、温度感は必要最小限に抑え、情報の密度と透明性を優先します。
トップで感じた「第二の家族のような距離感」と、サービスページで得る「具体的な数字と比較」は、矛盾するように見えて、相談前の検討プロセスの中では別々の役割を果たします。
事務所概要ページ|ファクトのレイヤー
事務所概要は、生駒事務所と大阪事務所の2拠点を、まったく同じフォーマットのテーブルで並列表示しました。
装飾も追加情報も、代表挨拶も沿革も入れていません。
事務所概要ページは、「ここに行こうかどうしようか考えている人」が住所や連絡先を確認するために訪れるページです。
ストーリーや理念は他ページで十分に語られているので、このページの役割は「ファクト確認」に絞りました。
ページごとに役割を限定すると、各ページの機能が混ざらず、訪問者は迷わずに必要な情報にたどり着けます。
制作のポイント💡
サイト全体を一つのトーンで塗ろうとすると、どこかが薄まります。
レイヤーで分けると、それぞれのページがそれぞれの役割を最大限果たせるようになります。
サイトは均質な一枚の絵ではなく、用途の違う部屋がつながった建物のような構造で設計するほうが、訪問者にとっても自然です。
【設計思想3】誠実性の演出と相談の質の向上

「お問い合わせを増やしたい」というご相談は、それ自体としては理解できます。
しかし、私たちはこの目標を一度疑うところから始めます。
問い合わせ件数を最大化することは、本当に事務所の利益につながるのか。
100件のうち成約10件と、30件のうち成約15件では、後者のほうが事務所にとって健全です。
問い合わせを増やすことと、相談の質を上げることは、しばしば別の方向を向きます。
まこと司法書士事務所のリニューアルでは、後者を選びました。
サイト全体を通して、「合わない人」を自然にフィルタリングし、相談する側との認識のすり合わせをサイト上で進める設計を採用しています。
サービスページに「注意点」を載せる

家族信託のサービスページには、メリットだけでなく注意点も同等の比率で記述しています。
- 「身上監護権は含まれない」
- 「信託できる財産に限りがある」
- 「家族の合意が不可欠」
- 「遺留分への配慮が必要」
4つのメリットに対して、4つの注意点を並列で書き出しました。
これは、ご依頼者であるまこと司法書士事務所と十分に議論したうえでの判断です。
「合わない人を遠ざける情報を載せて、相談数が減らないか」という懸念は、当然のように生じます。
しかし、注意点を載せたページは「読んで自分には合わないと気づいた人」が問い合わせを送らずに済みます。
その分、問い合わせまで進んだ人は「メリットと注意点を理解したうえで、それでも前に進みたい人」になります。
事務所にとって、最初の電話の難易度が下がります。
注意点を載せることは、売り損ねるリスクではなく、相談の入口の質を上げる投資です。
プロフィールを「権威性」から「等身大」へ
スタッフ紹介のページ、特にお二人それぞれの「ストーリー」個別ページは、士業のプロフィールとして見るとかなり異例な構成です。
学歴と職歴と実績数字で組み立てられた「権威性訴求型」ではなく、新人時代の失敗、異業種でのアルバイト経験、合格までに苦労した試験、当時の心境。
そうしたエピソードを長文で書き連ねた「等身大型」になっています。
これも、お二人と相談しながら設計した結果です。
家族の問題を扱う事務所として、相談する側が「この人になら話せる」と感じる入口は、資格や実績ではなく人柄である、という認識を共有しました。
権威性は信頼の獲得には役立ちますが、相談の心理ハードルは下げにくい性質があります。
等身大の自己開示は、相談の心理ハードルを下げる代わりに、しっかり読まないと信頼に至りません。
だからこそ、お二人のストーリーはそれぞれ独立した長文ページとして設置されています。
読み手がそこまで読み進めたとき、すでにある種の関係が始まっています。
検索ボリュームの小さい不安にも、ちゃんと応える
家族信託の「こんな方におすすめです」のリストには、典型的なユースケース(高齢の親・実家の管理)に加えて、「障がいのある子どもの将来の生活を守りたい(親亡き後問題)」「子どものいない夫婦で、配偶者の後の財産承継先も決めておきたい」といった、より個別性の高い悩みも含めました。
検索ボリュームだけを見ると、これらのキーワードは主力ではありません。
流入を最大化する観点だけで考えれば、典型ケースに絞ったほうが効率的です。
しかし、検索ボリュームが小さいということは、そのテーマで悩んでいる人ほど「自分のための情報が見つからない」と感じやすい、ということでもあります。
サイトのどこかで自分の状況に名前がついていることに気づいた人は、強い記憶を持って事務所に問い合わせます。
数で測れば小さい層ですが、相談の決定率と、その後の関係の深さで測れば、大きな価値を持つ層です。
制作のポイント💡
これらの工夫に共通するのは、「相談数」を分母にせず、「相談の質」を分子にする発想です。
誠実な情報開示は、見た目には機会損失に見えても、長い目では事務所の体力を温存し、相談の入口を健全に保ちます。
リニューアルは、流入を増やす仕事である以前に、入口の質を整える仕事です。
【設計思想4】メッセージと実装の整合性

「お客様第一」と書きながら、ぞんざいな扱いをする会社。
「丁寧なヒアリング」と謳いながら、初回相談が30分以内で打ち切られる事務所。
サイトのコピーと実際の体験がすれ違っている事業者は、思いのほか多くいます。
メッセージはどのようにでも書けますが、実態と異なる場合、どこかでバランスが崩れます。
そして、その崩れは相談する側に必ず伝わります。
最初に「親身に」と読んでいたからこそ、実際の体験が事務的だと違和感が増幅します。
まこと司法書士事務所のリニューアルでは、サイトに書く言葉と、サイトの構造、そしてその後の体験までを地続きに設計しました。
「第二の家族」と「ご家族で運営する事務所」
サイトのブランドコンセプトは「第二の家族のような距離感」。
そしてサイトの中で語られる事務所の運営体制は、松浦亮介様・松浦真澄様のご夫婦による経営。
これは偶然の一致ではなく、サイト設計の早い段階で「メッセージと事実の一致」として活用すると決めた要素です。
家族の問題を扱う事務所が、家族で運営されている。
サイトで語る価値観と、実際の事業構造が、同じ言葉の延長線上にあります。
ブランドコンセプトの強さは、コピーの巧みさだけでは決まりません。
そのコンセプトを裏付ける事実が事業の中に存在するか、で決まります。
フィクションのコンセプトは半年で枯れますが、事実を根拠にしたコンセプトは長く効き続けます。
細部の一貫性|プロフィール末尾の同じ言葉
代表お二人のストーリー個別ページは、それぞれ独立した長文として書かれていますが、最後の一文は揃えてあります。
「もし何か『ちょっと聞いてみたい』ということがあれば、是非ご連絡下さい。お会いできるのを楽しみにしています。」
異なる人物が、異なる文体で、自分の歩みを語る。
それでも最後の一行で、同じ言葉に着地する。夫婦経営という設定が、サイトの細部にまで及んでいることを、読者は意識せずに感じ取ります。
整合性は、目立つ場所より、こうした目立たない場所に宿ります。
制作のポイント💡
メッセージと実装の整合性は、サイトの説得力を決める最後のピースです。
素晴らしいコピーがあっても、フォームが裏切れば、印象は崩れます。
逆に、地味なコピーでも、実装が一貫していれば、訪問者は無意識のうちに信頼を積み上げます。
サイトは、書いた言葉の総和ではなく、書いた言葉と作った構造の一致度で評価されると、私たちは考えています。
まとめ

サイトリニューアルは、デザインを刷新する行為ではなく、ビジネスの設計思想を更新する行為です。
まこと司法書士事務所のサイトには、4つの設計思想が一貫して流れています。
心理ハードルへの徹底介入、感情と専門性の二層構造、誠実性の演出と相談の質の向上、メッセージと実装の整合性。
どれも派手な仕掛けではありません。
しかし、これらが揃ったとき、サイトは「綺麗な制作物」ではなく「事業の資産」になります。
リニューアルを「見た目を新しくする仕事」として発注すると、3年後にまた同じ理由でリニューアルすることになります。
リニューアルを「ビジネスの言語化と構造化の仕事」として進めると、その後の数年、サイトは事業の意思決定を支え続けます。
私たちがご一緒したいのは、後者のリニューアルです。
サイトリニューアルのご相談

サイトリニューアルを「デザインの刷新」ではなく「事業の再設計」として考えたい方は、お気軽にご相談ください。
御社の業務領域、顧客の心理、競合のポジショニング——そうした要素を踏まえた設計思想からご一緒します。
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